アラビアのサフラン

昔、バグダッドにいた裕福な商人の娘が王に見初められ、妃として迎えられることになりました。王は彼女に金貨10万枚の価値がある黄金の首飾りを贈ると、「これは先祖代々伝えられてきた大切な品です。もしなくしたら、あなたの手を斬り落としますよ」と話しました。そんなある日、王宮の前に物乞いがやって来て、「預言者ムハンマド様のお情けにかわって、なにかめぐんでいただけませんか」と言うではありませんか。敬虔なイスラム教徒だった彼女は首飾りをあげてしまい、それを知った王に手を斬り落とされ離縁されてしまいました。

一方、物乞いの男は首飾りを売ったお金を元手に大商人になりました。ある日、決して人に会おうとしない奇妙な娘がいるという噂を聞き、興味を持って求婚してみたところ、「もしあなたがよその国の方なら結婚してもいいです」という答えが返ってきたのです。そこで男は娘と結婚し、自分の国に帰ることにしました。

実はこの娘こそ、王に手を斬り落とされてしまったあの妃でした。彼女は今まで手がないことを隠してひっそりと暮らしていましたが、これから結婚生活に入れば、手を使わなければならない場面も出てくるかもしれません。

思い悩んだ彼女がアッラーに祈りを捧げたところ、緑のターバンを巻いた老人が現れました。
「私は預言者ムハンマドです。斬られた手をお出しなさい」

娘が手を差し出すと、老人はあっという間にその手をもとどおりに戻してくれました。 さらにムハンマドが娘の頭上に手をかざすと、その指が触れたところから次々とサフランが咲き、なんとも言えぬ良い香りが漂ったということです。高貴な香辛料として、神や預言者とも結びつく話が残されているサフラン。
サフランを使ったお茶や料理を楽しむ時は、神話や逸話に思いを馳せてみるのも素敵ですね。

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