花と神話~ヒヤシンス
トロイア戦争の英雄アキレウスは数々の武勲を立てました。トロイロスを攻めた時のこと、そこにいたトロイア王の姫ポリュクセネを見初めました。彼はポリュクセネを妻にするからギリシャ軍から身を引いて帰国すると申し出たのです。
その相談のためアポロンの神殿に出かけたのですが、アポロンはトロイアの味方でしたから、パリスにアキレウスを矢で射殺するように命じました。第一の矢は彼の右の踵に命中し第二の矢は彼の胸につきささりました。こうしてギリシャの英雄は死んだのでした。
彼の遺体を取り返そうと直ちにギリシャ軍がやってきました。まずアキレウスに従っていたテラモンの子アイアスがトロイア軍と闘かってアキレウスの死体を守っていました。その後オデュッセウスが駆けつけ敵軍を防ぎ、ようやくギリシャ軍地に戻ってくることができたのでした。
その後、彼の鎧を誰が受け継ぐかをめぐって争いが起こりました。何と言ってもこの鎧は鍛冶の神ヘーパイストスが作り上げたこの世に二つとないものだったからです。
結局最後に、英雄オデュッセウスとアイアスが激しく争うことになりました。アテナとアガメムノンはオデュッセウスの味方でした。アイアスはアキレウスの死体を抱えていただけで、敵軍と闘ったのはオデュッセウスだと言ったのです。
審判の結果、知、勇ともに優るオデュッセウスがその鎧を相続することに決まったのですが、その審判の結果を恥と感じ、怒りを覚えたアイアスは狂乱状態になってしまいました。羊の群れをオデュッセウスとその仲間と錯覚し、その中に乱入して暴れ廻るという醜態を演じたのですが、やがて正気に戻ると自らの行為を恥じて命を絶ってしまいました。
その時アイアスの血からヒアシンスの花が咲き出したのです。そしてその花びらにAi Ai という文字が現れたといいます。それはアイアスの頭文字ですが、ギリシャ語で「悲しい」という意味でもあります。
ただし、今日ヒヤシンスと呼ばれている花は16世紀の中頃ヨーロッパに入ってきた植物ですから、ギリシャ時代にヒヤシンスと呼ばれていたのはラークスパー(ヒエンソウ)、アイリス、パンジーのどれかではないかと言われています。