万葉の花々(14)~さきくさ(笹百合)2~

ササユリ(笹百合)は山地の草原に自生しているユリの品種の一つで、日本固有種でもあります。葉の形が笹の葉に似ていることからササユリ(笹百合)と呼ばれるようになりました。主に本州中部地方から四国、九州地方にかけて分布し、関東地方ではあまり見ることはありません。ユリの中では開花時期が早く、5月から7月にかけて大輪の花を咲かせます。花色は淡いピンク色ですが、ごくまれにアルビノ種が生まれ、白い花を咲かせることもあります。

*ササユリの特徴​​

花はラッパ型で、先がくるりと反り返る。笹の葉に似た葉と淡いピンク色の大輪の花が特徴です。漏斗状に咲き、花びらの長さは約10cmから15cmほどで、独特の芳香を持っています。花粉の色は赤褐色ですが、黄色い花粉を持つササユリもあります。野山に自生していることから、地域によってはヤマユリとも呼ばれています。ちなみに野山に自生している野生種は、種から花を咲かせるまでに7年以上かかります。

実は準絶滅危惧種

前述したように、ササユリの野生種は種子から花をつけるまでに7年以上もの歳月を要します。さらに病気に弱いことや、美しい姿から盗掘されることも多いため、近年では野生種が減少しています。ササユリを準絶滅危惧種に指定した地域もあるほどです。

*ササユリの地理的変異種

ササユリには複数の地理的変異種があり、特徴や呼び名も少し変わっています。ここでは、ササユリの主だった地理的変異種を紹介します。

ヒュウガササユリ

ヒュウガササユリ(日向笹百合)は、九州の宮崎県北部および大分県南部に分布している小型のササユリです。花色が基本種のササユリと比べると、やや濃いめのピンク色という特徴があります。ササユリの中でも開花時期が早く、特に海辺に自生しているものは4月下旬から開花します。

ジンリョウユリ

ジンリョウユリ(神領百合)は、四国の徳島県の山地に分布しています。徳島県の神山町神領村で発見されたことから、この名前がつきました。ササユリの中では最も小型の品種で花も小輪です。花色は濃いめのピンク色ですが、花びらの喉元の色が周辺部よりも濃いという特徴があります。また、葉に細い白覆輪が入っているのもこのユリの大きな特徴です。

イシマササユリ

イシマササユリ(伊島笹百合)は、徳島県阿南市の離島・伊島の海岸近くに自生している品種です。開花時期は5月下旬から6月上旬で、大輪の淡いピンク色の花をつけます。海の影響を受けやすいため、肉厚で幅が広い葉を持っているのが大きな特徴です。

フクリンササユリ

フクリンササユリ(覆輪笹百合)は、四国の高知県や愛媛県の丘陵地帯や産地の草地などに自生する品種です。名前は葉に白い覆輪がついている特徴に由来しています。開花時期は6月から7月です。開花時期を迎えると淡いピンク色、または白い花を咲かせます。

ニオイユリ

ニオイユリ(匂百合)は紀伊半島の熊野山中に分布しているササユリの変種で、細い葉と最大で1m以上にもなる高い草丈が特徴です。花色は基本種のササユリに近い薄いピンク色ですが、香りは名前が示すように基本種よりも強いとされています。大輪の花が咲くと細く垂れ下がる葉とあいまって、独特の雰囲気を持つ優美な姿を見せてくれます。

 

花言葉:「清浄」「純潔」「上品」「希少」

「清浄」「純潔」はユリ全般の花言葉で、由来はギリシャ神話とキリスト教にあると言われています。ギリシャ神話ではユリを婚姻と貞節を司る女神ヘラの花としました。一方、キリスト教でも白いユリを聖母マリアの象徴花として扱っています。「上品」はササユリの端正な姿が由来です。「希少」は近年、野生種の数が減少したことに由来しています。

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*奈良市の中心地、本子守町に鎮座する率川(いさがわ)神社では、6月17日に「三枝祭(さいぐさまつり)が行われる。俗に「ゆりまつり」とも呼ばれているものである。当日は大神(おおみわ)神社の御神体である三輪山(みわやま)で摘んだ笹百合が酒樽一杯に飾られ、ご神殿に供えられる。そして、四人の巫女(みこ)が可憐な笹百合を手に持って優美な「ゆりの舞」を奉納する。

神事が終ると、お供えの花は疫病除けとして参拝者に授けられる。笹百合の強い芳香が幸をもたらし、魔除けの作用をするという。百合根は古くから薬に用いられてきた。

(『やまと花万葉』東方出版 より引用)

ソフィア

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